そら豆で毛糸を染めて靴下を編む
そら豆を茹でて食べた後の話
春の終わりのある日、スーパーでそら豆を見かけたので買った。もうそんな時期なのね、と季節の廻りを感じながらグラグラと煮立った鍋で茹でた。普段だったら茹であがったものをお湯ごとざばぁとザルに空けるのだが、この日はなんとなく、一粒一粒をおたまですくって移したのだった。まだ熱いそら豆の薄皮をむいて頬張るとあの癖のある香りが鼻腔をくすぐった。初夏の風味だ。ひとつ、ふたつ、と丁寧にむいてゆっくり堪能した。
驚いたのはそのあとだ。時間をかけて夕飯を食べ終えた後、そうだ鍋がそのままだ、と冷めたゆで汁を流しに捨てたとき。なんとゆで汁が真紫に染まっていたのだ。
あれ、何を茹でたんだっけ?と思った。そうだそら豆だ、そら豆。
えっっ?
そら豆のゆで汁こんな色になるの?
https://www.peko-step.com/tool/tfcolor.html を使用して色見本作成
そら豆の色素について
調べたところ、そら豆のゆで汁に色がつくのは有名な話みたいだ。知恵袋にもたくさんの質問と回答があった。この色素を利用して黒く煮付けたものが"お多福豆"とも呼ばれているそうだ。
そら豆を茹でたことはあったけど、がさつなもので、冒頭の通り普段はザルにざばぁなゆえに気が付かなった。新しい発見だ。普段と違うこともしてみるもんだなぁ…。
そうだ、これで毛糸を染めたら面白いのではないだろうか。以前から、毛糸を自分で染色して何かを編んでみたかったのだ。
そら豆の煮汁を使った布の染色の方法を調べてみると、先人たちの足跡が確かに残されていた。インターネットってスゲー!!
煮汁の色の源泉は、そら豆本体ではなく薄皮らしい。それならそら豆の中身をおいしくいただいた後、薄皮を煮だせばもっと濃く色素を抽出できるだろう。それからもっと面白い情報も手に入れた。豆と外皮をつなげている部分(便宜上"へその緒"と呼ぼう)を使って布を染めると明るい黄色に染まるようだ。一つの材料から複数の色が抽出できるなんて最高ではないか。2種類の染色液を作って、編地に模様がうまく浮き出てくるように毛糸を染めてみたい!
草木染め(そら豆も草木の一種でしょう)は奥深そうだ。素材によって色の付き方が全く違うらしいので、最終的にどんな色味に染まるかやってみるまで分からない。調べた感じ、毛糸で、そら豆の二色同時染色をした例はなさそうだ。若干不安だが、先人たちの残した記録をもとに挑戦してみた。
あの煮汁と同じように紫のシックな色に染まるかなぁ…?
そら豆で毛糸を染色
先日の煮汁は捨ててしまったので、そら豆を茹でるところから仕切り直しだ。
今回使用する材料は以下の3点。
- そら豆…ザルにいっぱい
- 毛糸 …1かせ(100g, DARUMA スーパーウォッシュメリノ 生地糸)
- 焼きミョウバン
手順は以下の通りだ。
まずは毛糸をぬるま湯につけてしっかり水分を含ませておく。洗面器にお湯を張って沈めた(写真はお湯につける前)。
主役のそら豆を茹でよう。そら豆を外皮-豆-"へその緒"に解体していく。
そら豆ってなんて過剰包装なんだ!むくたびに思う。
丈夫な外皮、その内側はふっかふか。しかもおまめは一粒ずつ薄皮で梱包されているという手の入れようだ。
神よ、何を思ってそら豆を作りたもうた。
進化論と創造論に思いを馳せつつ作業すると、思ったよりすぐ解体が終わった。
途中、家族がやってきて「そら豆ってニコちゃん大魔王に似てるよね」と言いながらひとつに顔を描いて去っていった。
そら豆は2 Lの水で塩ゆでした。ゆであがったら薄皮を剥き、薄皮を集めて再度煮汁に戻した。
この段階でも煮汁がうっすらピンクになっている!ただ、前回はもっと濃かったんだよなぁ…。ちゃんと再現できるだろうか。若干の不安を抱えつつ、じっくりコトコト、薄皮を煮込む。
~火を止めたり、温めたりを繰り返して数時間後~
うわ~…。。。
そうそう!前回もこんな感じだったのだ。これは毛糸、染まるでしょう。そんな色だ。
しかも謎におたまが変色した。
すごい。毒々しい。染料としては期待大だ。
同様の手順で、次は"へその緒"も煮出す。
こうして染色液が完成した。
左が"へその緒"、右が薄皮由来の染色液だ。
くすみカラーの緑と赤だ。きれい!これで染めたらどんな色になるだろう!きっと大人っぽいシックな色味になるはず!
ワクワクしながら毛糸を準備する。色がしっかりと入るよう、ミョウバンを溶かした液で前処理をする。焼きミョウバンは水に溶けにくかったが、熱すればきちんと溶けた。
ミョウバン液を沸騰しないくらいの温度を保ち、毛糸を30分ほど煮る。
準備が終わったら、毛糸を染色液につける工程に入る。
今回は段染め毛糸をイメージして染めてみたい。
段染め毛糸とはうまいこと複数の色で染められた毛糸のこと。編んでいくと、編地に模様が浮かび上がってくるのだ!
画像は以下のURLより https://item.rakuten.co.jp/hcs-ichikawa/schafpate12-wanderlust/?scid=af_pc_etc&sc2id=af_109_1_10000237
今回は、画像のような緻密な染色は難しそうだが、理想は高くチャレンジしてみる。
まずは量の少ない、"へその緒"から抽出した緑色の染色液に毛糸を浸す。
やはり液が少ないため、一瞬で毛糸に吸収されてしまった。
次は薄皮から抽出した赤の染色液につける。緑の染色液をかけた部分は割りばしをくぐらせて赤の液につかないようにした。
ボウルをお鍋に浸し、湯煎すること60分。
見比べるとよくわかるが、赤の染色液の色が薄くなっている。これは色素が毛糸に移った証拠ではないだろうか。
仕上げにミョウバン液で15分煮て、冷ます。触れるくらいに冷めたらぬるま湯でよく洗って乾燥させたら完成だ。
そら豆毛糸で靴下を編む
出来上がった毛糸がこちら!
うっすらとしたピンクに黄緑色が映えている。染色液の色からは考えられないほどふんわりとしたかわいらしい色に染まった。これは桜餅だ!いや、果物の桃みたいかも。シックな染まり具合を期待していたが、これはこれで気に入った。
さっそく、出来上がった毛糸で靴下を編もう。一体どんな模様が浮かび上がってくるだろうか。
靴下編みは最高に楽しい。セーターなどの大物に比べて気軽に編める。使う道具も少なくていいし、持ち運んで外でも編みやすい。たくさんあっても困らないし、他人へのプレゼントにも喜ばれる。今はブログやyoutubeで編み方が親切に説明されているので、初心者の人でもチャレンジしやすい。
編み始めたら止まらなくって、編み途中の写真がほぼない。大体2~3日で、両足分の靴下を無事編み終えた。
出来上がった靴下は、ピンクの地に黄緑色がらせん状にたなびくという、なんとも春らしい仕上がりになった。
まとめ
なんとまぁ、そら豆で毛糸を染めて靴下を編むと、やさしくかわいらしい春色靴下になるのだ。しかも一つの材料でピンクと黄緑に染まるというお得さも魅力的。
もう春という季節ではないけれど、これを履いてどこかお散歩にでも行こうか。本格的に暑くなってしまう前に。
参考文献
そら豆を使った布の染色を紹介されています。"へその緒"部分が黄色く染まるところなど参考にさせていただきました。
ソックヤーンの染色手順を参考にさせていただきました。
(あり)